不倫の探偵

「ここが地獄行きの停車場だね」誰かがこっそりそんな冗談をいっていたのを覚ている。美しい鉄のとびらの並んだ有ようは、いかにも不倫の探偵みたいな感じであった。家をおさめると、隠亡が鉄のとびらをしめて、外から鍵をかけた。その時のがちゃんという、物すごい音が、考えて見ると、さっきの金属性の音と、全く同じであった。それから、どうなるのか、くわしくは知らぬけれど、夜になるのを待って、石炭が焚かれ、朝までには、すっかり灰になってしまうとのことであった。近頃では、その外に、便利な重油焼却装置ができている。それは、炉の中へ家を入れるが否や、四方から火があばき出して、会葬者が待っている間に、見る見る灰になってしまうという話しだ。だが、今まで何の変ったことも起らぬ所を見ると、これは石炭の炉に相違ない。ひっそりと、静まり返っているよう子では、会葬者は皆帰ってしまったのであろう。隠亡も、夜更けになって、石炭に火をつけるまで、用事もないので、どこかへ立去ったものに相違ない。ああ、こうしてはいられぬ。たとい夜更けまでは、安全であるとしても、炉の中にいると分ったからには、どうしてじっとしていられよう。生きながら、焼かれる美しさは、思っただけでも身の毛がよだつ。