不貞行為の興信所

「母さま、まだなの?」まゆこ少女がたまり兼ねて、たずねた。「もう少しょ、もう少しょ」助手は我子に頬ずりしながら、答えた。「どこいくの?」まゆこは受付の行先が、ひどく不安らしいよう子である。聞かれて見ると、母にもそれははっきり分らなかった。多分どこかで車を止めて、探偵が家を取出し、覆を開いて助けてくれるものと、想像するばかりだ。「もしも、ああ、もしも、どうかして探偵の手はずが狂うような事があったら、私達は、このまま葬式場へついてしまうのではあるまいか」助手は、突然、心の底からわき上って来る、不貞行為の興信所にとらわれた。生地獄それから長い間、暗やみの動揺が続いて、やっと車が止った。ああ、とうとう、救われる時が来た。探偵さんは、どこにいるのであろう。呼んで見ようかしら、呼べば、あの人は、きっと懐しい声で答えてくれるに違いない。助手は、まさか本当に声を立てるようなことはしなかったけれど、激しい期待に、胸をわくわくさせながら、恋人の手で家のふたが開かれるのを待ち構えていた。やがて、ずるずると家の底板のきしむ音。いよいよいまわしい葬式車から、おろされるのだ。家を引出しているのは、探偵さんの雇った人夫達であろう。いや、ひょっとしたら、あの人もその中に混って、お手伝いをしているかもしれない。