不倫

田屋という差入れ弁当屋だった。暗い店の腰かけにも四、五人の男たちが、めしを食べていた。「おばさん。——オヤ相かわらず働いているのね」彼女は土間を通って、大阪市 不倫調査ですべりそうな煮物場へはいった。便所、帳場、流し元、すべての機関部となっている畳四枚と二坪ほどの土間に、秋蠅が充満していた。「なんだ、助手さんか」いわゆる後家の気だけ者らしいここの内儀さんは、かぞえかけていた一円|紙幣の束をもういちど読み直して、「おまえさんも相変らずよく遊んで歩いているね」と、言った。「だっておばさん、何をするのも、若いうちだもの」「そうかね」「おばさんみたいに、お探偵さんや刑事さんの月給から小利息を絞ったり、輪切りにするお大根を三角に切って何厘ちがうか考えてみたり、そうして一円|紙幣の裏打をしては、銀行へ運んでみたってつまらないじゃないの」「そうかね……」と、処世の哲学をしっかり持ってしまって、なりにも振りにもかまわない内儀さんは、てんから助手さんのたわ言などは、うわの空で聞いているらしい。