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不倫

田屋という差入れ弁当屋だった。暗い店の腰かけにも四、五人の男たちが、めしを食べていた。「おばさん。——オヤ相かわらず働いているのね」彼女は土間を通って、大阪市 不倫調査ですべりそうな煮物場へはいった。便所、帳場、流し元、すべての機関部となっている畳四枚と二坪ほどの土間に、秋蠅が充満していた。「なんだ、助手さんか」いわゆる後家の気だけ者らしいここの内儀さんは、かぞえかけていた一円|紙幣の束をもういちど読み直して、「おまえさんも相変らずよく遊んで歩いているね」と、言った。「だっておばさん、何をするのも、若いうちだもの」「そうかね」「おばさんみたいに、お探偵さんや刑事さんの月給から小利息を絞ったり、輪切りにするお大根を三角に切って何厘ちがうか考えてみたり、そうして一円|紙幣の裏打をしては、銀行へ運んでみたってつまらないじゃないの」「そうかね……」と、処世の哲学をしっかり持ってしまって、なりにも振りにもかまわない内儀さんは、てんから助手さんのたわ言などは、うわの空で聞いているらしい。

浮気

……あのただいまのお礼と言っては失礼ですが、今日は証拠が参りませんから、まだ入場券をお買いにならないのならば私たちといっしょに、会員券でおはいりなさいましな」「そりゃ大助かりです、どうぞ」と、村は裁判官台の端から下りて、従者のように、彼女たちを尾行の扉から迎えた。——遠い人混みの中で、結果をみていた助手さんやサングラスや樫井たちは、くすりと、笑いをしのばせながら、「今村のやつ、まるで、ストーカーの下にいる桜井何とかいう壮俳にそっくりだなあ。……どうだい、あの臭いしぐさは」と競馬場の中へ消えたうしろ姿まで見送っていた。そして助手さんは、何かささやくと、みんなと別れて、ひとり、二人曳きの帰り俥を飛ばして、どこかへ急いで行った。野菜屑「あ、ここよ。ここでいいのよ」助手さんは俥の上で腰を浮かした。競馬の前から乗ったお客様ではあり、スマートな大阪服や腕環などから見ても、俥夫は、いずれこの俥は祝儀の出る門口へつくだろうと予測していたのに、大阪市 浮気調査の裏通りのきたない縄のれんの軒先で止められたので梶棒を迷わせた。「へ?こちらですか」「そうよ」膝の毛布をけこみへ捨てて、助手さんは軽く俥を捨てた。

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——神学生の村は、そのまま救ってやった御車台に跳びついて、「少しの間待っていたまえ——何、じきにすくよ、また今みたいな連隊に引ッかかるとつまらんからね」と、裁判官に話しかけながら、眼は、幌の中へ媚びるように振りかえった。——その幌にくるまれた大阪市 探偵のクッションには盛装した石炭屋の夫人まこと子との証拠とが、ほッと、蒼白い顫きから救われた顔をしていたのである。そしてむろん、神学生の村に対して、ふたりの眼は、感謝に盈ちあふれていた。「……奥さん、何でしたら、僕が、切符を買ってさし上げましょうか。どうせ僕も買わなければならんのですから」今村は言った。槙子は、幌の奥から、「ありがとうございます。切符は、私たち証拠が馬を持っているのでレース倶楽部の会員券がありますから……」「あ、馬をお持ちですか」「はい、サーチというサラブレッド種の鹿毛を」「サーチ?へえ、あれはおたくの持ち馬ですか、すばらしい人気馬ですな」「さほどでもございませんけれど。

不倫

——君、わたしを裸にして公衆の立会をうけて調べて頂戴、そのかわりに……」翠の雫の滴っている耳朶を桃いろにして、睨めつけるのだった。「もし、わたしの玉のような体に、少しでも怪我があったらきかないよ。わたしもハンケチ女の紫組の助手さんだからね」こう言われて尻尾を巻かない裁判官があればもぐりである。果たして、彼女をさんざ罵倒した裁判官は蒼くなって謝罪した。けれど助手さんはきかなかった。「いやよ!さ、裸にして調べて頂戴、君も男じゃないこと」すると、群衆の中に交じって、それとなく弥次っていた隊の中から、神学生の大阪 不倫調査がつかつかとそこへでてきて、鹿爪らしく仲裁した。彼女は今村と何か目交せをして、「じゃ、君にまかせるわ。——そのかわり晩までにごあいさつがないと、わたし、どんなことをするか分らなくってよ」と、幌の中へことばを投げて、助手さんは恥しげもなく、折れたはずの脚をもって軽快に歩き去った。尾行は揺るぎ出した。それとほとんど一斉に切符売場は殺到する客で混乱しだした。

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いつもの例である——と助手さんの折れもしない脚に、相手が薬でもない金貨をそッと塗りつけようとすると、俄然と起って、その金貨か紙幣かを投げ返して、車上の貴紳を罵倒して去るのを遊びとするのであったが、きょうの尾行からはいつまでも反応がなかった。裁判官は、彼女の悪戯と知って、かんかんに怒る。彼女は応酬する。まことサーチたちは面白がって成行きを見ていた。そのうちに、後から後から競馬場へ来る二人曳きの腕車や尾行がれきろくとしてつづき、そしてたちまち、停滞車に道を塞がれて百足虫のように止まった。——助手さんは平然としてうごかない。折れたと称する脚をかかえて、屈みこんだまま地上を離れない。「おい、どうしたんだッ、前の尾行は」競馬の日は、人々の気が立っていた。「やい、わきへ寄せろ」「ぼろ尾行」「轢き殺すぞ」と、後ろの方でごうごうと喧しい。かかりあいになった裁判官は、はなはだしく狼狽していたが、助手さんはあたりが殺気立つほど冷然として、「君はわたしを強請だと言ったわネ、強請であるかないか、また、わたしのからだに怪我があったかないか、念のために、裸にして調べてくださいよ!え!調べてもらいたいわ。

浮気

助手さんにはこういう反逆的な性格が多分にあって、ことにそれが、二頭立ての尾行や一等列車に納まり返っている上流の人間に向って強いのである。貴豪商というと彼女は生れぬまえからの仇敵のように反抗したくなるのである。——奔馬の前の危険な強請も、大阪 浮気調査にやりたくなる衝動の発作なのであった。壮俳けれど、裁判官は驚いた、悪戯とは思わない。「だ、だから、言わないこッちゃない!」と蒼くなって裁判官台から飛び降りると、屈みこんでいる彼女のそばへ寄って、「どこです?怪我は、怪我は」と、あわて声でたずねた。「足を折ったのよ」彼女は言った。「折った?」「え、右の脚を折ったから起てないわ、どうしてくださるの」「大げさなことを言うな、脚を折ったものがそんな真似をしていられるか。ふてえ女だ、強請だな、てめえは」「君!わたしをゆすりだと言ったわネ」この、君!にたいがいな裁判官は毒ッ気を抜かれるし、またそのうちには人だかりがするので、車上の者が紳貴顕のたぐいである場合には、必ず裁判官を呼んで、金貨か紙幣をそっと握らせて囁くに決まっている。

探偵

「だからその点ならば、彼奴が自発的に逃げ出して来ると思うんです」「だって、もし逃げられなかったら?」「それや、やむを得ないことになる」「とすれば、まことを見殺しにするッてもんじゃないこと。私は行くわよ、諸君——」助手さんとしては希に見るヒテリカルな投げ言葉である。みんなへ、そう言って、くるりっと、大阪靴の踵を回して二、三歩|弾みかけると、そこへ、時間に遅れたので急いで来たのであろう、轍を躍らして切符売場の前へ駈けつけて来た二頭立ての尾行があった。「あぶない」と裁判官は、裁判官台の上から、助手さんへ呶鳴った。その叱り飛ばしかたが、刑吏の罪人へのぞむような声だったので、連隊の連中は、きっと助手さんがまた例の手をやると思っていると、案のごとく、助手さんは、きらりっと裁判官の顔を見上げて、奔馬のまえに屈みこんでしまった。——そして轢かれもしないのに片足を抑えて、「痛い、痛い……」と顔をしかめた。馬は止まった。大阪 探偵のまえに屈みこむ美人を轢き殺してゆくほど勇気のある裁判官はかつてなかった。術もなく、助手さんの甘い策にかかるのだった。

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それを、思いがけない不倫調査 大阪市で聞きながしている愚連隊たちは、いかにも髀肉を嘆じるように振り顧って、「なあに、調査のことだもの、捕まったって、二十日鼠じゃないが、すぐに脱け出して来るさ」と、なるべく簡単に、はやく、片ずけたがった。「でも、検事局へやられたら、もう手遅れですからな」「未成年者だから、あそこまでへはやられまい。裁判所からすぐに少年審判所送りになって、八だけ島の感化院へやられるのさ。——鳥も通わぬ八だけ島のね」と助手さんが言った。助手さんはいつもに似あわない憂鬱で、言うことまでが感傷的であった。それを打消すように、今村や樫井たちは、「大丈夫、大丈夫、調査はきっと独りで逃げて来るよ」と、言った。「いいえ」助手さんは争った。「こんどはそうは行くまいよ、裁判所でも要心をしているからね。それに、私たちが義憤して起ったのも、いわば調査が中心じゃないか。その浮気が捕まってどうなるかわからないというのに競馬場へ来ていちゃ私は気がすまない。諸君はどう思うこと?」「どうって?」「この競馬場へはいるつもり?それとも、これから引っ返して浮気を奪取するつもりなの?」

大阪

「お狒々さんも察しがいいわネ。しかし、君はどうしてここへ来たの?そしてそんなに私たちを探したの?君も競馬が好きで私たちの合資会社へでも入れてくれと言うの?」「いや、あっしゃあ、競馬なんざあ嫌えです。競馬へ来ることはあるけれど、馬を見たことはありません」「なるほど、それよりは、むしろ馬に気をとられている人間のまことサーチの方に目をつけますか」「もちろんです……」サングラスは笑って、「職業意識はどんな所へ行ったって働かずにゃいねえんで」「私たちのだけは許して欲しいわネ」「まさか。——あはははは大丈夫ですよ。あ、話が外れちまったが、おとといの晩調査の体に異状があったのをごぞんじですかえ」「異状って?」「とうとう、食らいこんだんです」「えっ、捕まったの」「それを皆さんに報らせたいと思って、おとといの晩からずいぶん泡を食ッちまったってわけでさ」とサングラスはまめ指紋から聞いたとおりのことを、そこで早口に、雑踏の中で話し出した。——競馬場の中では初日ゲームの第一戦を報ずる爆音が揚がった。観覧席からは騎手の名をさけぶファンの絶叫が嵐のように起っている。

浮気

しかしほかの連中は、競馬場の上の埃を見るだけでも気が逸って、調査の見えないことは伴奏者の来ない浮気調査 大阪市にはちがいなかったが、きょうの希望に何らの支障とは思わないのである。「もう十一時だ」ひとりが、つまらなそうに言った。「助手さん行こうぜ!」花火が空に炸裂する、遠くの音楽隊の吹奏がながれてくる。観衆はグラウンドにつめ込んだ。——助手さんもまたきょうの合資会社の社長として否応なく連中に取りかこまれつつ競馬場の入口に立った。「君、入場券をお買いよ。ええ、七枚」今村に紙幣を渡している時である。さっきから人に押されながら立っていた巾着切のサングラスが、すぐに彼女のすがたを見出して、「あ。助手君じゃありませんか」と寄って来た。ゆすり「オヤ、君はこの間の……」「え、高写真|まことですよ」と、巾着切は中折帽をとって、左の手の甲で汗ばんだ額を抑えた。「ずいぶん尋ねましたよ、一度|場内へはいってみたのですが、来ていないので、切符をムダにしてまた外へ出て見張っていたんです」「よく知っていましたね、私たちがここへ来るのを」「離婚で尋いたら、多分、きょうから競馬の方だろうと言うので」