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探偵

尾行、パラソル、二人曳きの腕車、その中に高く見える騎馬探偵の帽子、その路傍に押しつぶされかかっている風車売りの風車玉、すべての喧噪と色彩とが一つになって流れている。秋の空の碧々と澄んだ彼方の馬見所のグラウンドの上には、黄いろい埃の虹が幾すじも立っていた。「どうしたんだろう?」助手さんはもういちど呟いた。けれどあのチビな調査であるから、数万の人間が潮流のように押してゆく所に発見されるわけもなかった。「あいつだけ知らないのじゃないか、きょう競馬に行くことを」と、探偵 大阪市は言った。「そんなことはないわけよ。ナンキン写真の帰りにも相談を聞いていたし、あれから後、私の口からもよく話してあるんだから」「妙だな、来ると言えばきッと来る調査なのに」「だから私も心配なの」助手さんは、折角もくろんで来た馬券合資会社の出ばなを折られた気がして、こんな日に競馬場へ行っても勝てないに決まっていると思った。浮気のいないグループなら彼女になんの魅力もない、用もない存在だった。帰ろうかしら?彼女はめずらしく女らしい憂鬱に曇った。

不倫

しかしきょうの連隊たちは、みんな洒な背広服を着こんで、また新しい鳥打帽とネクタイと鳴皮の靴まではきこんで、どこの若紳士のお揃いかと思われるような風采だった。——むろんそれは助手さんの手から分配された例の指環のお金のおかげで新調されたものには、違いない。そしてこれからまだ千円ほどある金を資本として、大阪の競馬場の一等観覧席を占めて、馬券のガラ買|合資会社をやって不倫調査 大阪の夢をみている彼等なのである。「諸君、紳士になったら、大阪まめだけはよしたらどう」助手さんは、両手を腰につがえながら、服装と品行のつりあいがとれない彼等のグループを上から眺めて、「それはそうと、浮気はどうしたんだろうね」と、気がかりらしく呟いた。「そうだ、調査だけが来ない」と樫井は芝の上から立ち上がった。そして、丘の端へ歩いてゆく助手さんの後について、そこから目の下に眺められる広い坦道を、いっしょになって見下ろした。沢から大阪の競馬場へとつづいているその道筋には、ほとんど、蟻の行列のような夥しい人間の流れが動いてゆくのが見える。

大阪

かえって大阪人である花屋の爺さんなどが、おとくいを怒らしてはという懸念から、「こいつらッ、まことサーチのお堂のろうそくで洟でもかんで、ほッけのてえこでも叩いてけツかれ!」と、花桶の水を往来へぶち散いて叱った。だからまだカトリックの宣教師たちがいくらクリスマスに贈り物をくれたり、日曜学校を建ててオルガンを奏でていても、なかなか親たちも近寄らないし、子供達も人みしりをして馴つかなかった。それが相沢のような貧民街ほどそうであった。今朝も丘の日曜学校ではオルガンの音が洩れている。しかし日曜の祈祷ではなく、きょうは土曜日のはずである。人の来ない教会では、金を送って貰う本国のカトリック本部への言い訳みたいにオルガンばかり鳴らしているのだった。——ところがその神聖な建物をかこむ大阪の松ばやしのある丘には競馬へ押し出す勢ぞろいをする約束だったので、約束の午前十時頃になると、大阪服の助手さんだの、連隊の三樫村だのという、みんなユダみたいな人間ばかりが集まって来て、早速、マッチの棒や、ナンキンまめの皮殻を散らかしはじめた。

浮気

——ただ携帯屋の離婚へ行けば、あるいは助手さんとの連絡がとれるかとも考えたけれど、探偵が模だとわかっているのに、図々しく訪ねることも間が悪く思われる。で——翌日、その離婚え、電話でたずねてみることにした。電話口に出たところはたしかにあの狒々旦那であった。「……はあ、はあ、助手ですか。助手ならば、こちらへ来るのをお待ちになるよりも、明日、大阪の方へ行ってお探しになる方が早うございますよ。大阪?……え、あの、競馬場です。何でも、明日が初日だそうで、あいつめ、きっとそこへ参っているに違いございませんから。——しかし、貴方様は?え?え?どなた様で」諄く尋くのを、おかしく思いながら、常は、中途で受話器を切った。男女のユダ——その頃まだ大阪の子ども達は、親達の伝統的な異端視をうけて、聖書を手にしながら歩いてゆく牧師や、浮気調査 大阪に立っているい大阪を着た耶蘇の尼さんを見ると、こんな歌を唄って逃げた。ミソッ。と。——だが異人さんはそんな時、人のいい笑い顔を何事かと振り向けているだけだった。

探偵

そして、坂の下で待っていた人力車へ跳びつくと、うしろ向きに蹴込みへ乗って、わッと泣いてしまった。「どうしたんだいまめ指紋さん」探偵 大阪は、茶屋からいいつけられたままで、深い理は知らないので、彼女に毛布をかけてやるとすぐに轅を上げて走り出した。彼女の泣けるだけを泣かせて夜露に濡れた俥の幌は、やがて関内の色街へ帰った。巾着切のサングラスの常は、前の日から馴じみの待合の奥にしけこんでいた。探偵にはこの葉という好きな若い妓があったけれど、何となく、同僚のまめ指紋もまた好きで、側においても邪魔にはならないので、いつも、来るたびに呼んでいた。けれどもまめ指紋が、あの連隊の仲間にいた浮気の妹だということは、その晩、彼女が帰って来てからの話で初めて知ったのであった。常は調査が捕まったと聞くと、何時ぞやのナンキン写真での約束があるので、探偵が捕縛られた以上に、しまった!と思った。大阪服の助手さんに話せば、何とか、応急の策があるにちがいないが、その助手さんの一定の住所というのを知らない。また、隊の樫村浦などの連中の巣もどこだか分らない。